史上最大の飛行可能な鳥類、アルゲンタヴィス・マグニフィセンスの飛行特性

アルゼンタヴィスでのヒット数が増えたのでいったい何があったのかと思ったら、こういう論文が発表されていたようです。
Yahoo!ニュース – 時事通信 – 史上最大級の飛べる鳥、主に滑空か=600万年前生息-米大学チームが化石分析
アルゼンタヴィスはおよそ600万年前のアルゼンチンに生息したコンドルに似た鳥で、推定体重70kg、翼長6.4mの巨鳥です。飛行可能だった鳥類では現在知られている限り最大の種ですね。
 元の論文を確かめねばならないというわけで、Proceedings of the National Academy of Sciencesで発表された該当論文の内容梗概をあたってみました。
 発表したのはプロトアヴィス(Protoavis texenis)を発表したサンカール・チャタジー(チャテルジー)。近年、チャタジーは初期鳥類などの航空力学的な分析を精力的に行なっているようで、2005年にミクロラプトルの4枚羽を使った飛行に関する論文(※3)を発表しています。

我々は、コンピュータシミュレーションモデルにより、アルゼンチンの上部Miocene階(600万年前)から産出した巨大な飛行鳥類であるArgentavis magnificensの飛行能力を推定する。Argentavisは、連続した羽ばたき飛行、あるいはそれ自身の筋力によるその場での離陸を行うには、おそらく大き過ぎた(体重70kg)。現生のコンドルとハゲタカのように、Argentavisは環境から飛行のためのエネルギーを抽出し、滑空のためのパワーを供給するアルゼンチンのパンパ(草原)によって提供される熱を頼りに、そしておそらくアンデス山脈の風上側斜面上でスロープ・ソアリングを使った。Argentavisは、約3°の滑空角と67km/hの巡航速度を持つ優秀なグライダーであった。Argentavisは坂を駆け下りるか、あるいは飛行速度を得るために止まり木からの射出によって離陸することができた。他の離陸の手段は疑わしさを残している。
argentavis_fig1a.gif
PNASの内容梗概より訳出

 上記は内容梗概を翻訳したものです。
 今回の研究の新しい点は航空力学的モデリングのベースを飛行機からヘリコプターのそれのものを使ったことのようです。
 その結果、自前でその場で飛び立つにはアルゼンタヴィスはパワー不足で、離陸には重力か向かい風を必要としたということですね。この辺のシミュレーションはモデリングによってかなり幅のある結果を作り出せるのでなんともいえませんが、この論文は参考意見の一つにはなりえると思います。

 しかし、滑空角が3°ということは、1/(tan(3/360*2*π))≒19.08 で、滑空比19ということでしょうか。滑空比19は悪くはありませんが、論文が言うほど優れている(“indicating excellent gliding capability”)程でもない気がしますね。

 スロープ・ソアリングはグライダーや軽飛行機による山岳飛行で普通に使うテクニックですね。(※4) 風上側の斜面には上昇気流が発生するので、風を横に受けながら斜面をなめるように速度を一定させて飛ぶと、面白いように高度が上がります。僕がアルゼンタヴィスなら、アンデス山脈沿いに発生する上昇気流は当然利用して飛んだでしょうから、この辺りは軽飛行機パイロットとしては感覚的にも納得できる話です。

【注釈】
※1 アルゲンタヴィス・マグニフィセンス(Argentavis magnificens)
 ラテン語読みでは「アルゲンタヴィス」なのですが、Argentavis=アルゼンチンの鳥の意味ですので、カナ書きでは「アルゼンタヴィス」と表記するのが多数派でした。今回の報道で一気に「アルゲンタヴィス」がネット上の多数派になったようです。
※2 プロトアヴィス(Protoavis texenis)
 プロトアヴィスは脳幹の研究以来さっぱり音沙汰がなく、どうやら合成化石(キメラ)だった可能性が強いようです。
※3 チャタジーの2005年の論文「羽毛恐竜ミクロラプトル・グイにおける複葉翼の翼平面形と飛行性能」
Chatterjee, S., and Templin, R.J. (2007). “Biplane wing planform and flight performance of the feathered dinosaur Microraptor gui.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(5): 1576-1580.
※4 上昇気流を使うテクニック
 積雲の下には上昇気流が発生しているので、それを石飛びのようにつないで飛ぶというのもあります。平原で上昇気流を使うテクニックです。

【参考】
PNASの内容梗概:The aerodynamics of Argentavis, the world’s largest flying bird from the Miocene of Argentina
最大の飛行する鳥はかろうじて地上を離れることができた――化石は示す