SB8Rが納車されてから1ヶ月が経過したので感想を書いてみます

お久しぶりです。昨年10月末から記事の更新をご無沙汰しておりました。

Bimota SB8Rが4/11に納車となり、僕のバイクは増車によって4台体制となりました。(SB8R, TL1000R, CRM250R, CRM80)
納車以来1ヶ月を過ぎましたので、このあたりでSB8Rについて感じたことを書いてみようと思います。

SB8Rと台原森林公園の桜

Bimota SB8Rについて

SB8Rは、イタリアのビモータ社(Bimota)が世に送り出したSBK用のホモロゲーションマシンです。
ピエルルイジ・マルコーニによって設計された車体と、Suzuki TL1000Rのエンジンの組み合わせは高いポテンシャルを持ち、改良型のSB8Kは2000年のSBK第2戦で、アンソニー・ゴバートのライディングによって優勝を飾っています。
(なお、直後のビモータ社の倒産により、以降のレース活動は中止となってしまいました。)

生産台数は公表されていませんが、バリエーションのSB8R Specialを合わせて150台程度という説があります。

車体

フレームは、ドライカーボンとアルミフレームを接合するという、世界初にして以降誰も追随者が出てこない独創的過ぎる構造です。

写真

バイクの歴史上、この形式のフレームを採用しているのは、SB8Rと改良型のSB8Kのみです。
ドライカーボンで作られたスイングアームピボットにまず目が行きますが、前方がゆるやかに膨らむアルミフレームの曲線も僕のお気に入りです。

前部アルミフレーム

トップブリッジはアルミブロックの削り出しです。トップブリッジ位置で直径56mmもあるパイオリ製フロントフォークを押さえつけています。キャスター角を2段階に変えられるらしいのですが、これについては試していません。

車体の乾燥重量は179kgで、同じエンジンを積むTL1000Rよりも18kg軽量です。乗った感じではスペックよりもさらに軽いような印象を受けます。
ホイールベースは1390mmで、TL1000R(1395mm)とほぼ同じです。
諸元表によるとタイヤのサイズは、フロントは 120/65 ZR17 、リアは 190/55 ZR17 です。リアタイヤには細めのもの(180)が使われていたという雑誌の記述もあるのですが、ロット違いで両方存在するのかもしれません。

シートはカーボンモノコック製で、これ自体がライダーの体重を受け止める強度部材を兼ねています。シートレールは入っていません。

シートカウル

カウルのプラスチックは経年変化に弱い素材らしく、カウルのプラの部分には細かいヒビができていました。強度部材でない箇所ですから特に気になるものではありませんが、ネジ穴などの荷重のかかるところから伸びているヒビは振動で成長しそうなので、ストッピングホールか積層で対処しようと思います。

ブレーキ

マスターシリンダーとキャリパーは前後ともにブレンボです。ディスクプレートはフロントがステンレス製でした。リアは鋳鉄製で、少し乗らないだけでも錆だらけになります。リアだけが鋳鉄というのが腑に落ちませんが、フロントのステンレスディスクは前オーナーのモディファイによるものかもしれません。
車体の軽さも相まって、ブレーキは良い感じで効きます。指先加減で微妙な調整も自在です。

フロントフォーク

ミラー

ミラーは2個の緩み止めナットでカウルに固定されています。同時期のDUCATIのミラーもこんな感じだった気がするので、あるいは汎用の部品なのかもしれません。スタイリッシュで粋なデザインですが、ミラー自体が小さく取付位置も前方内側に寄っているため、肝心の後方に死角が多い点が困ります。また、畳むことも不可能です。
僕の場合は置き場所の都合上(自宅では横を家族が通ることが多いし、通勤時には駐輪場に止めている)、畳めるミラーが望ましいので、すぐに社外品に変えました。
ミラー取り付けネジの間隔は33mmですが、金属製のカウルステーはなく、カーボンFRPのカウルに空いた穴にそのまま取り付けられているので、穴を前後方向に拡大するか開け直すかすれば大抵のカウルミラーは取り付け可能だろうと思います。

チョークレバー

ステムから出ているアルミ削り出しのノブがチョークレバーです。ステムの中空をうまく利用するセンスは素敵です。ただ、ステムの下からワイヤーが出ている構造上、これを外さないとステムを持ち上げるタイプのフロントアップスタンドを使えない点が、整備性の点で気になります。

チョークレバー

ヘッドライト

ヘッドライトは非プロジェクター式の両目点灯で、TL1000Sの特定仕向地向けと同じものです。(カナダ仕様らしいです) TL1000Sの片側プロジェクター仕様のライトも取付可能ですが、流用する場合は配線を変えるなどの対処が必要になります。片側プロジェクターは車検の光軸調整が楽ですし、電圧降下による光量対策も容易になりますが、TL1000S/Rのプロジェクターは配光があまり良くないため、夜間走行を前提とする場合は、両目点灯のままのほうが良さそうです。
僕の場合は通勤に使うので夜間走行は必須なのです。

フロント

メーター

TL1000Rの輸出仕様のメーター(上限300km/h)と全く同じものが使われています。TL1000Rに十数年乗り続けている僕にとっては、このメーターはおなじみの風景で、見るだけで心が安らぎます。

タンクの燃料システム

燃料タンクは樹脂製で、前方はエアダクトからエアクリーナにつながる空間となっています。タンク本体は後方で、後端はVバンクの後ろと排気管の間に挟まれています。タンク容量は20リットルで、燃料ポンプはTL1000Rのものと異なるものが使われています。
パーツリストを見る限り、燃料の残量センサーは存在するようなのですが、僕の給油タイミングが早いのか、本当にぎりぎりまで警告灯が点灯しない設計なのか、警告灯システムが壊れているのか、燃料警告灯は一度も点灯したことがありません。燃料の残りが少なくなったときには、メーターの燃料警告灯が静止点灯します。TL1000Rでは点滅→静止点灯の2段階ですが、SB8Rでは点滅を経ずに静止点灯です。

スロットル

スロットルワイヤーは開き側のみの1本です。引きばねが効いていて、ケーブルが十分に潤滑されている場合は問題なさそうですが、万一引っかかったらおしまいなので、安全のために開き・閉じの2本引きに変えたいと思っています。スロットルボディの加工が必要となるかもしれません。

エアインテーク

SB8Rのもう一つのトレードマークとも言える、アッパーカウル上面に開口した巨大エアインテークです。取り入れた空気はタンクカバー前半部分からエアクリーナーに導かれます。ライダーが計器を見たとき、視界の大部分を占領してしまうスパルタンなダクトです。
エアインテークの開口部側には金網はありません。エアクリーナーで止まるとはいえ、ダクトの段階で異物吸い込み対策をしなくても大丈夫なのか不安になります。(TL1000Rや隼やVTR1000SP-1のダクトには当然金網が張られています。)(追記:ダクトの根元に金網が存在していました。)
このエアインテークは、改良型のSB8Kでは廃止されていますから、効果が薄かったか、あるいは効果が不安定で性能に寄与しなかったかのどちらかなんでしょう。
でも僕はSB8Rのこういう外連味も良いところだと思っています。

エアインテーク

冷却システム

ラジエーターは三分割構造で、左右にファンがマウントされています。水温計に表示される値がTL1000Rと同条件の値かは不明なので実際どうかはわかりませんが(そもそもセンサーが違うかもしれないし、校正にずれがある可能性もあります)、メーターに表示される数値を見る限り、渋滞でもあまり温度が上がりません。ファンが早い段階で作動するのかも。

ポジション

乗った時の前傾姿勢はTL1000Rよりは若干強く、VTR1000SP-1と同程度です。ハンドルは遠めで、肘でタンクを抱え込みやすいです。SB8Rだけを乗り続けるときには特に違和感がないのですが、SB8RからTL1000Rに久しぶりに乗り換えるとハンドルの近さに驚きます。
ハンドルの位置そのものには不満はないのですが、
(1)ラジアルマスターを取り付ける場合、クリアランス確保が難しそう
(2)フルロックUターン時に、タンクから突き出たインテークダクトに手を挟んで冷や汗をかくことがある
(3)荷物を背負って走らざるを得ないバイクなので、長距離を走る場合の疲れが問題になりそう
という理由から、ハンドルをより近いポジションの社外品に交換することも検討中です。

下半身については、ステップと着座面の距離が短いため膝の曲りがきつく、大柄な人には窮屈だと思います。ハングオフ前提のポジションだと思うのですが、もう少しシートを高めにして膝に余裕を持たせた方がいいのかもしれません。
足つき性は輸出版TL1000Rと同等か、若干悪い程度です。ただし車体が軽いので、TL1000Rに乗っている人なら困ることはないと思います。

シート高

ブレーキレバー

ブレンボ純正のブレーキレバーは4段階の調整式ですが、いちばん近い位置にしても僕にはなお遠いため(僕の指は短めです)、アジャスタブルの社外品に交換してみました。
結果、指はいい感じで届くのですが、一番近い位置にセットしてブレーキを3本指で握ると、グリップに残した人差し指を挟むという状態になってしまったため、現状は二番目に近い位置で使っています。
(社外品ブレーキレバーが悪いというよりは、マスターの取付位置とグリップラバーの直径が原因です。)
なお、SB8Rに搭載されているブレンボのノンラジアルマスターのセットはレバーがリバーシブルなので、クラッチレバーを裏返してブレーキレバーに使える利点があります。

グリップラバー

楕円断面のエルゴノミクス的な洒落たデザインで握り心地も良いのですが、これはブレーキレバーを近い位置にしたときに指を挟む原因でもあります。楕円断面の長辺で指とレバーのクリアランスが失われるのです。
普通の真円断面のグリップに交換を考えています。

ウインカーのボタンの押し心地が良い

プッシュキャンセル式なのですが、キャンセルするときの押した感触が良く、初めて乗った時に感激しました。いろいろバイクに乗ってきましたが、ウインカーのボタンの押し心地で感動したのは初めてです。

エンジン

SB8RのエンジンはTL1000Rと同じ、スズキ製の「T504」エンジンです。(TL1000Rの国内仕様のエンジンには「T501」の名が与えられていますが同じものです。)
以下、エンジン回りについてはTL1000Rと比較しての感想です。

低回転が苦手なTL1000Rと比べてさえもなお低速トルクが薄く、5000rpm以下はあてにできません。それでも車体が軽いので実用レベルの加速はします。

ギアが気持ちよく入ることには驚きました。体感的なものか、オイルの違いか、あるいはバックステップのリンクの違いか、TL1000Rと同じエンジンのはずなのに感覚が違います。

加速時にカウル内で吸気音由来と思われる独特の反響音がします。巨大ダクトが楽器のように音を増幅しているのかもしれません。

始動性はTL1000Rに比べて良くありません。始動時にチョークレバーは必須です。TL1000Rなら一瞬で始動するような条件でも、セルを数秒間まわし続ける必要があります。バッテリーの取り外しが非常に困難な構造のバイクですので、バッテリーを放電させてしまったら大変なことになりそうです。

エンジン本体はスズキのものなのですが、電気系統はイタリア製です。ECUはマニエッティ・マレリ製のMAR600との情報がありました。(MAR500という説もあります。) スロットルボディはワルボロ製、インジェクターはマニエッティ・マレリ製とのことです。

パワーの出方は粗くガサガサした感じで微妙な制御ができず、スロットルワークで車体を操るのには支障があります。全開と全閉は良いのですが、中間領域が良くありません。メーカー出荷時のインジェクションのセッティングに問題があるのではないかと思います。(国内海外問わず、あらゆるサイトで似たような言及を目にするので、僕の個体だけの問題ではないようです。ビモータ社によるサポートは期待できませんし、処方箋としてはサブコンかフルコンの導入しかなさそうです。)

クラッチを当てながら旋回する方法は、感覚があまり使わってこない油圧クラッチには不向きですし、この際パーシャルコントロールを使わずに開け閉めを明確にする乗り方を覚えることにします。
ブレーキの利き方は前後ともすごくシームレスで良い感じなので、ブレーキワーク主体で車体を操ることでインジェクションのセッティング不備をカバーできるかもしれません。乗り方をいろいろ工夫してみます。

操縦性

まだクローズドコースに持ち込んで試していないので、あまり気の利いたことは書けないのですが、現時点で感じたことを書きます。

操縦性自体は非常に素直です。(比較対象:TL1000RとVTR1000SP-1)
バンクし始めの時に前輪の切れ込みの主張を感じません。TL1000Rでは倒しこみの際に「カクン」と内側に切れ込んで舵角が付くのがはっきりわかるのですが、SB8Rだとあまり意識しないうちにいつのまにか必要な舵角が付いている感じです。ステアリングダンパーを最弱にしてあることと、タイヤの違いも影響しているかもしれません。(TL1000Rに履かせているのはパイロットパワー2CT、SB8Rについているのはディアブロコルサ)

高剛性フレームと信じ難いほど太いフロントフォークの組み合わせから、融通の利かない堅物の軍人さんのような乗り味を想像していたのですが、思いのほか素直に曲がります。(乗り味ならVTR1000SP-1のほうが固いです。) ただ、エンジン特性がON/OFFしかないような制御の粗いものなので、旋回中のラインの変更は不得手です。SB8Rの車体はスロットルで操るタイプのバイクに思えるのですが、インジェクションまわりの制御があまり良くないので、この部分で損をしているような気がします。僕がリアブレーキをうまく使ったり、荷重移動や舵角制御をうまくできるようになればカバーできるようになるかも。

ブレーキは前後ともフィーリングがとても良く、効きそのものも強力ですし、加減することも自由自在です。

サスペンションはフロントがパイオリ製、リアがオーリンズ製で、納車されたときそのままのセッティングで使っています。まだサーキットに持ち込んでいないので良否は判断できませんが、現状で不満はありません。

使い勝手

シート

クッション素材そのものはTL1000Rより良いはずなのですが、乗っていて硬さを感じます。走り始めのころは5kmも走ると尻が痛くなっていましたが、乗っているうちに慣れました。
カーボンモノコックのシートカウルで体重を支える構造は、普通のバイクの金属製のシートレールと違い、細かい振動を吸収してくれないのかもしれません。
シート直下に排気管が通っているにもかかわらず、シートの断熱は優秀で、特に熱を持つことはありませんでした。(シート下は銀色の断熱材で埋め尽くされています。)同じエンジンのTL1000Rではフレームの後ろ上方部分が熱を持ち、夏場は停車のたびに内腿が火傷しそうになるのですが、SB8Rにはごく自然に乗ることができました。

取り回し

ホイールベースは短いのですが、ハンドルの切れ角が小さいため旋回半径は非常に大きく、Uターンの時はリーンアウトで舵角を増してやる必要があります。
しかもフルロックでUターンしようとするとダクトに手を挟むことがあります。

ヘルメットホルダーがない

案外これが困ります。ヘルメットをバイクに括り付けるために、常に自転車用のワイヤーロックを持ち歩かなければならないのは不便なので、どこかにつけられないものか検討中です。
TL1000Rと同様に、脱着式シートの隙間からワイヤーを出して固定する方法が現実的かと思っています。

積載性

シートのクッション部分を外すと収納スペースが現れます。ただし、この収納スペースは「たけのこの里」を一箱入れるのが精一杯で、合羽や工具やワイヤー錠どころか、書類を積むスペースにすら窮する状態です。

シートカウルの後部(2人乗りのSSならタンデムシートとなっている部分)はどうかと言えば、10kg程度の荷重をかけたところ、非常に嫌な感じでたわみました。ヤング率の低いカーボンがここまでたわむということは、破断までのマージンはあまりないのでしょう。静荷重でこれですから、重い荷物を乗せて走ったら、路面から拾った衝撃でテールカウルが破断しかねません。モーメントの小さい前方に荷重がかかるようにすればよさそうですが、そうなると人が座るスペースと干渉します。

さらにタンクの上面の良い場所にダクトが開口しているので、一般的なタンクバッグは取り付けできません。

このバイクに乗る以上、荷物は全て背負う覚悟が必要です。

燃費

近場のツーリングと通勤を織り交ぜて180km走ったところ、12リットル程度しか消費していませんでした。15km/lくらいの燃費で、案外悪くありません。

スタンド

普通のスタンドです。一時期のビモータが採用していた、荷重が抜けると自動的に引き込まれる、悪名高い「自殺スタンド」ではありません。
足で操作するときの突起部が小さいため、座ったままの状態からはスタンドをかけにくいですが、降りてからスタンドをかければ良いだけなので些細な問題ではあります。

イグニッションスイッチ

キーを回しきった位置がポジションランプ点灯スイッチになっていて、この状態でキーを抜くとポジションランプとテールランプが点灯したままになる恐ろしい仕様です。気づかなければバッテリーを放電させてしまう可能性が大きく、しかもSB8Rの設計上、バッテリーの着脱は難事なうえにブースターケーブルの接続も不可能なので、もしそうなった場合は進退窮まります。

キースイッチ

SB8Rのライダーは常に「回しきった位置から一個手前」の位置でキーを抜くように注意しなければなりません。
この剣呑な仕様は、そのうち配線を変えて無効化したいと思っています。
(ポジションランプとテールランプをLED化すれば、万一の時もバッテリーが空になるまでの時間を稼げるのかな?)

ホーン

音が格好いいです。こういう実際どうでもいいところにこだわるセンスが素敵です。