「新発見は恐竜-鳥類の繋がりに新たな疑いを提起する」のかなあ?

 ScienceDailyを読んでいたところ、『新発見は恐竜-鳥類の繋がりに新たな疑いを提起する』とのコラムに出会いました。この記事を読んでも明確な理由が書いてあるわけではなく、どうにも要領を得ません。
 こういう場合は元の論文を確かめるのが早道というわけで、アブストラクトを軽く翻訳してみました。


ワニ類の肺と心臓血管の器官は,鳥類の心臓と肺気嚢システムほどには著しく専門化していないが,現生の全ての主竜類は4室の心臓と,異なった起源を持つ血管の張り巡らされた蜂の巣状の肺を持っている.鳥類において,通常の肺機能は,背面に位置した毛細血管の分布が行き渡らない腹部の気嚢が,発達した胸骨および特別にヒンジの付いた肋骨によって換気されることを要求する.薄い壁で囲われ,容積のある腹部の気嚢は,負の(吸入側の)圧力の発生の間,内部の崩壊を妨ぐために,横方向と尾方向に支えられる:背部に方向付けられた,横に開いている下腹部である複合仙骨,そして特殊化した大腿-腿複合体は,必要な支持を提供し,主として吸入崩壊を防止する.比較の結果,おそらく獣脚類恐竜は,同様に拡大された腹部の気嚢と,彼らの呼吸と整合性がある骨-筋肉の変異に欠けていた.拡張された,機能的な腹部の気嚢がないため,獣脚類が鳥類的な気嚢肺を所有する可能性は少なかった.獣脚類における鳥類的な肺の機能の欠如の可能性は,いっそう洗練された心臓血管の解剖学的特徴の示唆と一致しない.
http://www3.interscience.wiley.com/journal/122395783/abstract?CRETRY=1&SRETRY=0
(筆者による訳出)

 筆頭者はQuick博士、共同著者のRuben教授は鳥類の心肺関係の研究で頻繁に名前を目にする研究者ですね。
 さて、これがなぜ『この発見はおそらく、鳥類が恐竜と並行の経路で――多くの恐竜種が存在する前にそのプロセスを開始して――進化したことを意味する。』(This discovery probably means that birds evolved on a parallel path alongside dinosaurs, starting that process before most dinosaur species even existed.)となるのかが不明です。
 尾が短くなったことによる重心位置調整のために、大腿骨を常に曲げた状態にし、膝の部分を支点にする姿勢となったと考えるのが一般的な解釈と思います。その過程で「二次的に」大腿骨による腹部気嚢の構造保持も行なうようになったと考えれば、分岐学で支持される『恐竜→鳥類』仮説に特に矛盾はないように思えるのですが、Ruben教授の『恐竜は鳥の祖先ではない』という確信は一体どこから来ているんでしょう。

岩手県立博物館に行ってきました

 今日は岩手県立博物館に行ってきました。
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 先日の古生物学会でクジラの初期進化に関する講演を聞いて古鯨類に興味が沸いてきました。講演中に言及されていたミズホクジラ(Herpetocetus sendaicus)やマエサワクジラ(Burtinopsis sp.)などの化石鯨類のレプリカはいずれも岩手県立博物館に展示されています。まずは現物を見に行ってみよう!
 ということで、初めて伺ったのが先月の3連休。
 どこがどうなっているのかしっかり記憶して帰らねば。(でも鳥類とは骨が全然違うのでどうにもならない)
 メモとデジカメを持って復元骨格の周りを憔悴したツキノワグマのごとくくるくる回っていると、親切な学芸員さんが声をかけてくださいまして、シリーズ化した一般配布用の資料をいただき、その上まさかお話できると思ってなかった方(※1)と直接お話できる機会まで頂きました。
 岩手県立博物館の皆様、本当にありがとうございました。
 そして今日の目的は、前の訪問時のお礼というわけではありませんが、前回話題にのぼった始祖鳥骨格標本(サーモポリス標本)についての論文の写しをお渡しすることと、先日うまく撮影できず心残りだった骨質歯鳥類の一種(Pseudodontornithidae gen. et sp. indet.)の上腕骨(標本番号 IPMM 40061)の写真もしっかり撮影してくることで、結論を言えば両方とも達成できました。本当に岩手県立博物館の皆様にはお世話になりっぱなしで恐縮です。

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狙い撃つぜ!(カメラで)

 狙撃と撮影、英語だと両方ともshootなんですよね。
 台原森林公園の地図を作る計画は着々と進行中。西側はおおまかなところをカバーできたので、今日は東側を重点的に調査しました。今回もその過程で出会った鳥たちについての覚書です。
 シジュウカラ
 シジュウカラです。太目の小道で6~8羽の群れが居ました。
キジバト
 3/9の探索時に出会ったのと同じ個体であると思います。(顔つきとか仕草とか)
ダイサギ
ダイサギとカルガモ
 樹上にダイサギも確認しました。
カルガモ
 カルガモのつがいです。
セキレイ
セキレイ
 セキレイのつがいも確認しました。
キジバト
 キジバトですが、前述のものとは違う個体です。餌のとり方が豪快な奴でした。鳥は個体ごとに個性があって面白いです。
ジョウビタキ(♀)
 距離が遠いですが、ジョウビタキの雌でした。実は当地のデスクトップキャラクター『野原ひたき』の鳥形態はジョウビタキの雌という設定です。
ヒヨドリ
 ヒヨドリが木に止まっていました。

台原森林公園の地図作成(3/9編)

 先週の日曜日(2008年3月9日)もGPSとフィールドノートを手に台原森林公園の地図作成をやっていました。西側の小道はかなり網羅できてきたような気がします。
 地図作成の過程で見かけた鳥です。
ジョウビタキ(♂)
 かろうじてジョウビタキと分かりますが、AFが背景の木を捉えちゃってピンぼけ。
 冬も終わりだからもうしばらくしたらお別れですね。
シジュウカラ
 シジュウカラの番のうちの一羽でした。
キジバト
 キジバトです。あまり人を恐れない不思議な子でした。

台原森林公園の地図を作成中

 台原森林公園内の数箇所にある案内図は小道のディティールがそれぞれ食い違い、しかも実地を歩いた経験上どれも正しくない。
 それならば正しい地図を自分で作ろうと思い立ち、ここ数週間の土曜日は登山用のハンディGPSを持って園内の水系および小道の探索を行なっています。探索の成果としての地図をhttpで公開するかは今のところ未定ですが、トラッキング情報の一部はこんな感じです。
地図1
地図2
 最初は30メートル毎の移動計測設定でしたが、地図上にプロットすると座標が粗いため、今日から5秒毎の時間計測設定に切り替えてみました。計測結果は午前中だけならばメモリの容量にぎりぎり収まるようです。
 地図を作る探索の過程でいろいろな野鳥と出会いました。
 先週はコゲラ、カラ類(シジュウカラ、ヤマガラ)、ヒタキ(ジョウビタキの雌と思われる)、キクイタダキなどを確認しましたがカメラを持っていなかったので目視のみ。
 今日はコゲラがアカマツに取り付いて摂食しているのを確認したのですが、タイミングが悪く背中しか映りませんでした。
おそらくコゲラと思われるキツツキの背中

The Evolution of Feathers

 文献の流し読みをしていたところ、羽毛の起源についての面白い論文を見つけたので備忘録代わりに。
 題記の論文ですが、著者はJAN DYCK、発表は1985年。22年前の論文です。
 多孔性の物体はソリッドな表面よりも水をよく弾きますが、羽毛の要件はこれに適合するとのこと。
 濡れた外皮から水分が蒸発した場合の体温の喪失を防ぐことができるようです。
 このことから、著者は羽毛は海岸に生息する爬虫類で進化したものではないかという仮説を導いています。
 大胆ですがおもしろい仮説です。
DYCK, J., The Evolution of Feathers, Zoologica Scripta 14 (2), 137-154, 1985.

中生代の古鳥類は地上性であることについての新しいアプローチ

 今日はバイクでどこかに出かける予定だったのですが、天気が悪かったため、自宅でScienceDailyを流し読みしていました。その過程で興味深い論文を発見したので自分用のメモをかねての記事作成です。
Earliest Birds Acted More Like Turkeys Than Common Cuckoos(ScienceDailyの元記事)
 ScienceDailyの元記事は上記URLなのですが、記事の内容が微妙にピント外れのような気がするので、論文のアブストラクトを直接訳してみました。

中生代の鳥類および非鳥類型獣脚類の採餌方法
Foraging modes of Mesozoic birds and non-avian theropods
Christopher L. Glen and Michael B. Bennett
鳥類の起源と初期進化は進化生物学上の大きなトピックである。20世紀において、進化史のシナリオでは、地表性の鳥の先祖と樹上居住性の鳥の先祖の二者が提案されていた。これは誤った2分法であると考えられる。後肢の機能を考慮に入れた場合、多くの現生鳥類が、地上と樹上の移動者というあいまいな分類にあることが問題の一部であると我々は示唆する。実際のところ、これらは互いに排他的な二者択一型の手段というわけではない。多くの現生鳥類は異なった度合いで地上~樹上の性質を示す。よって、我々は2分法よりも、現生鳥類と彼らの示す地上または樹上(あるいはその両方)の採餌行動に照らし合わせた連続体の上に配置することを提案する。この手法をテストするために、我々は完新世鳥類249種における爪先の鉤爪を分析し、樹上の採餌行動がより支配的になることに伴い鉤爪の湾曲が増加することを明確にした。 改良された鉤爪の形状測定基準は、後者の性質を表すため、現生鳥類と絶滅した鳥類との直接の比較をより多く許容する。先人の研究の対照によると、中生代の鳥類、およびそれと密接な関係のある非鳥類型獣脚類(non-avian theropod)の爪の弯曲率は、完新世の樹上性鳥類とは明らかに異なっており、それよりも「地上で採餌する(ground-foraging)」鳥類に近いことを我々は発見した。
原文(内容梗概)
(筆者による訳出:強調部分は筆者によるもの)

 Current Biologyの2007年11月7日号に掲載された論文です。
 爪の曲率で地上性、樹上性を推定するというアプローチは、少なくとも1984年のオストロムの論文の時点ですでに存在していたわけで、「地上で採餌したと思われる」結論も最初の論文に沿ったものなので、一体何をいまさらと思われる方もいるかもしれません。
 しかし、今回の論文の新しい点は「採餌行動」を最も重要な習性と考え、「地上、樹上の主にどちらで餌をとるか」という行動様式と爪の曲率を関連付けた点です。私たちが目にすることができる現生の鳥類には、はっきり地上性とも樹上性とも言い切れないあいまいな生態のものも存在しますが、そういう鳥類もデータとして有効になるわけで、理論的には従来より精度の高い結果が得られるわけです。
 その結果、どうも非鳥類型獣脚類および初期鳥類は地上で採餌する鳥類と似た傾向が見られたということですね。鳥類の初期進化を考える上で興味深い論文です。
Glen, C. L. & Bennett, M. B., 2007. Foraging modes of Mesozoic birds and non-avian theropods. Current Biology, Volume 17, Issue 21, 6 November 2007, Pages R911-R912

「始祖鳥は樹上性にあらず」を追加

 一ヶ月以上経っていますが、9月24日に新しい記事『始祖鳥は樹上性にあらず』を書き下ろしました。書き足りなかったことも多いので、時間を見て追記していきます。
 上記でも書いたとおり、始祖鳥の樹上動物説は、かなり無理のある仮定を積み重ねないと成り立たない見解なのですが、マスコミに露出の多い学者さん――具体的にはアラン・フェドゥーシアやラリー・マーチンなど――がこの説を支持しているので未だに力を持っているように見えるのが困りもの。
 彼らは鳥は恐竜ではなくいまだ知られざる樹上性の槽歯類から進化したと考えている方たちなので、こういう主張をするのも仕方ないことなのかもしれません。

『贋作にあらず(False Forgery)』翻訳しました。

 翻訳したのは9月6日なのですがいつのまにか時間がたってました。
[贋作にあらず(False Forgery)]
http://archaeopteryx.rgr.jp/zoology/apx02.html
 いままでいろいろ論文を読んできましたが、これほど文面から苛立ちを感じる論文を訳したのは今回が初めてかも。
 この著者のリーチェル教授、当時フレッド・ホイルが始祖鳥を贋作呼ばわりしたことに対しての反論の執筆を編集者に依頼され、しぶしぶ(推定)書いたというのがこの論文の書かれた経緯。
 憤慨の仕方も、ホイルが始祖鳥を贋作と主張したことに対してではなく、「忙しいのにこんな馬鹿なことに時間取らせるな」という印象です。
 よろしければご一読ください。

史上最大の飛行可能な鳥類、アルゲンタヴィス・マグニフィセンスの飛行特性

アルゼンタヴィスでのヒット数が増えたのでいったい何があったのかと思ったら、こういう論文が発表されていたようです。
Yahoo!ニュース – 時事通信 – 史上最大級の飛べる鳥、主に滑空か=600万年前生息-米大学チームが化石分析
アルゼンタヴィスはおよそ600万年前のアルゼンチンに生息したコンドルに似た鳥で、推定体重70kg、翼長6.4mの巨鳥です。飛行可能だった鳥類では現在知られている限り最大の種ですね。
 元の論文を確かめねばならないというわけで、Proceedings of the National Academy of Sciencesで発表された該当論文の内容梗概をあたってみました。
 発表したのはプロトアヴィス(Protoavis texenis)を発表したサンカール・チャタジー(チャテルジー)。近年、チャタジーは初期鳥類などの航空力学的な分析を精力的に行なっているようで、2005年にミクロラプトルの4枚羽を使った飛行に関する論文(※3)を発表しています。

我々は、コンピュータシミュレーションモデルにより、アルゼンチンの上部Miocene階(600万年前)から産出した巨大な飛行鳥類であるArgentavis magnificensの飛行能力を推定する。Argentavisは、連続した羽ばたき飛行、あるいはそれ自身の筋力によるその場での離陸を行うには、おそらく大き過ぎた(体重70kg)。現生のコンドルとハゲタカのように、Argentavisは環境から飛行のためのエネルギーを抽出し、滑空のためのパワーを供給するアルゼンチンのパンパ(草原)によって提供される熱を頼りに、そしておそらくアンデス山脈の風上側斜面上でスロープ・ソアリングを使った。Argentavisは、約3°の滑空角と67km/hの巡航速度を持つ優秀なグライダーであった。Argentavisは坂を駆け下りるか、あるいは飛行速度を得るために止まり木からの射出によって離陸することができた。他の離陸の手段は疑わしさを残している。
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PNASの内容梗概より訳出

 上記は内容梗概を翻訳したものです。
 今回の研究の新しい点は航空力学的モデリングのベースを飛行機からヘリコプターのそれのものを使ったことのようです。
 その結果、自前でその場で飛び立つにはアルゼンタヴィスはパワー不足で、離陸には重力か向かい風を必要としたということですね。この辺のシミュレーションはモデリングによってかなり幅のある結果を作り出せるのでなんともいえませんが、この論文は参考意見の一つにはなりえると思います。

 しかし、滑空角が3°ということは、1/(tan(3/360*2*π))≒19.08 で、滑空比19ということでしょうか。滑空比19は悪くはありませんが、論文が言うほど優れている(“indicating excellent gliding capability”)程でもない気がしますね。

 スロープ・ソアリングはグライダーや軽飛行機による山岳飛行で普通に使うテクニックですね。(※4) 風上側の斜面には上昇気流が発生するので、風を横に受けながら斜面をなめるように速度を一定させて飛ぶと、面白いように高度が上がります。僕がアルゼンタヴィスなら、アンデス山脈沿いに発生する上昇気流は当然利用して飛んだでしょうから、この辺りは軽飛行機パイロットとしては感覚的にも納得できる話です。

【注釈】
※1 アルゲンタヴィス・マグニフィセンス(Argentavis magnificens)
 ラテン語読みでは「アルゲンタヴィス」なのですが、Argentavis=アルゼンチンの鳥の意味ですので、カナ書きでは「アルゼンタヴィス」と表記するのが多数派でした。今回の報道で一気に「アルゲンタヴィス」がネット上の多数派になったようです。
※2 プロトアヴィス(Protoavis texenis)
 プロトアヴィスは脳幹の研究以来さっぱり音沙汰がなく、どうやら合成化石(キメラ)だった可能性が強いようです。
※3 チャタジーの2005年の論文「羽毛恐竜ミクロラプトル・グイにおける複葉翼の翼平面形と飛行性能」
Chatterjee, S., and Templin, R.J. (2007). “Biplane wing planform and flight performance of the feathered dinosaur Microraptor gui.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 104(5): 1576-1580.
※4 上昇気流を使うテクニック
 積雲の下には上昇気流が発生しているので、それを石飛びのようにつないで飛ぶというのもあります。平原で上昇気流を使うテクニックです。

【参考】
PNASの内容梗概:The aerodynamics of Argentavis, the world’s largest flying bird from the Miocene of Argentina
最大の飛行する鳥はかろうじて地上を離れることができた――化石は示す